八木沢峠を目指して −旧道1編−

 
 下の地図の青い線は、デポ地の高の倉ダムサイトをスタート地点とし、旧八木沢峠へ通じる道程である。
私は今、約15kmの距離を1時間40分掛けて走破したのである。亀のごとき速度ではあるが、今の体調を思えば上出来であり、 今まさに入ろうとする、旧道入り口を目にすることが出来たことを素直に喜びたいと思う。
 そして、いよいよ赤い線である。大きなカーブを描きながら高度を上げていく現道を、寸断するように細かなジグザグ模様を描いているのは、 今を遡ること30数年前に、人の行き来、貨物の輸送といった交通という名の大任を解かれた、嘗ての道なのである。今回の山間ツーリングの第一目標、旧八木沢峠を今、チャリと共にめざす。

 
 

旧道を行く

 
下の地図のご覧頂きたい。
登る斜面の向きが違うことから、県道12号線から分岐しショートカットして、西斜面を上り現道へ戻る九十九折の坂道を旧道1とし、 現道を横断して北斜面を上りきり、旧八木沢峠を目指す道を旧道2とした。
尚、旧道1は東から西へ登る道であることから、レポートで表示する現在地の地図は、上を西とし、下を東とした。  
 
 
 旧道1を行く
 2009年5月16日、10時15分。旧道入り口に到着した。
紅白のゲートには出入りを拒むロープの一本も結ばれてはいないが、その先は、今を盛りの木の葉に遮られて、初夏の光も届かぬ薄暗いトンネルの様であり、 気楽に立ち入るといった雰囲気ではない。
 
 
 
 
 10時17分 1番目のカーブを曲がって
 いつもの事ではあるが、先の見えない森の道に入る時は暗鬱な気持に、足までが重くなってくるのである。
気持ちを奮い立たせるように、鼻腔を膨らませ、最初の一歩を踏み出す。
周りは、そんな思いまでして山道に入る気が知れないと言うが、その通り、私自身気が知れないのである。

 さて、気を取り直しペダルを踏み込もう。砂利道はその下に水を含んでいて決して走り易いとは言い難い状態であるが、今も車の出入りはあるらしく、しっかりと四輪車の轍跡を見る事が出来る。
しかし、道の使用目的が変わって離合の幅を必要としなくなった今、嘗ての道幅は植物の住処となり、尚もその領地を広げ続けているようである。 現在地
 
 
 10時19分 2番目のカーブを曲がって
 2番目のカーブを曲がると石積みの雍壁が目に入る。見た目石積みに綻びは無く、峠を越え上の道を下り来る者が無い今もその道を守り続けているのである。 現在地  
 
 
 
 10時21分 3番目のカーブに入る
 旧道1で、たぶん一番大きなカーブであろう此処を写した写真を、いくつかのサイトで見たことがあるが、 植物のテンションが高いこの時期に、森に入ってカーブの全体を見る性根はボンクラには無いのである。
言い訳させて貰えば、道を外れてカーブを写そうにも、木々の葉に全体を見る事さえ出来ないと思うのである。 現在地  
 
 
 
 10時21分 3番目のカーブを曲がって
 3番目のカーブを曲がり、少し進むと手の届きそうな位置に次に上るべき道の路肩が見えてくる。 この先、西を目指した道は等高線に習い行く先に背を向けるように北東へ進み、タイトな円を描いて反転するのである。 現在地  
 
 
 
 10時24分 4番目のカーブを曲がって
 4番目のヘアピンカーブを曲がり、道は南西方向へ向きを変え、次なる等高線を目指し上り続ける。森の奥に行くべき道が待機している。 現在地  
 
 
 
 10時27分 5番目のカーブを曲がって
 5番目のカーブを曲がると谷側にガードレールの支柱が見えてくる。 転落の防止を担うガードレール自体は何処かへと消失しているが、今その役目を必要とする者が此処を通る事はないのである。 しかし、取り残された白い支柱はこの緑一色の世界にあって、唯一この場所を道路と知らしめる役目を今も担っているのである。 現在地  
 
 
 
 10時27分 6番目のカーブに入る
 いよいよ旧道1の最終カーブとなる6番目のカーブに入る。
此処にも先程と同じ様にガードレールの支柱のみが、道と谷の境界を示している。 白い支柱より少し後ろ、控え目に立っているのはガードロープを繋いでいただろうコンクリート製の支柱である。 ガードレールがその役割を演じていたとき、通行する車内からその姿を見る事はな無かっただろう。 しかし、今新旧共に役目を終えて並び立つその姿を、微笑ましく思うのは私だけだろうか。 現在地  
 
 
 
 10時30分 道が無い?
 旧道1最後のカーブを曲がり、後は現道までほぼ真っすぐの道を行けば良いはずなのだが・・・・。
????????
うーん?
道が無い?
ここまで順調に続いていた道が、突然、プッツリと消えてしまったのである。
カーブの方向から、道は写真の左側に続いているはずなのだが、目指す方向にあるのはどう見ても森である。 現在地  
 
 
 
 10時31分 どう見たって森だろう!
 先程まで順調に旧道散策を楽しんでいた私であったが、この状況には困惑してしまった。
おかしいと思いつつも、左が森ならなら、じゃあ右かと。
右に行けばその先は大きな石の転がる崖であり、到底道があったとは信じ難い状況であるし。
だが、左は森だし・・・。
・・・・・・・・・・・!
行く手を見失った私は、手掛かりを求め、最終カーブの前に壁のように立ち塞がる崖を登る事にした。
崖の左奥には、車道跡にしては狭く急ではあるが、上へとに続く路があったのである。
枯葉に埋もれ、滑りやすい急な路をなんとか登り詰めたのだが、そこは、鉈で払われた枝木が転がる場所であり、
路は林業を生業とする人達の作業道だったのである。
 さすがにボンクラの私でも、これで選択肢が一つしかない事実を認めるのであった。(遅)
森であると思い込んだ場所は実は旧道であるという事実。 現在地  
 
 
 
 10時43分 探し物は何ですか?
 森ではなく道であるという事実を確かめるべく、私はチャリを置き、若木を掻き分け奥へと進む事にしたのである。
小川と化した湿地帯を抜け、幹こそはまだか細い幼木ではあるが、広げた葉は視界を妨げるには充分であり、 両腕を突き出し枝を振り分けるように進むのだが、度々、顔に掛かる蜘蛛の糸に、次第に下を向きながら歩く事となったのである。 木々の間の平泳ぎ状態である。 現在地  
 
 
 
 10時44分 道といえば道ですが、・・・。
 確かに、道はその先へと続いているようである。木々が所構わず生えてはいるが、 嘗て道との境界であろうと思われる土手に沿って人ひとり通れる幅の道が微かな希望を抱かせる。 現在地  
 
 
 
 10時44分 道ではない道
 若干、行く先が南へと小さなカーブを描き始めた頃、少しではあるが視界のある場所に出た。
しかし、そこは先程までの草の生える道ではなく、枯葉に埋もれた大きな石が転がる道であった。 現在地  
 
 
 
 10時45分 捨て去られた道
 そして、倒木。完璧に捨てられた道である。
ここが旧道であったという事は、既に忘れ去られた現実を目の当たりにしても、僅かに残る歩ける場所を辿り続けるのである。 倒木を潜り、跨いで。 現在地  
 
 
 
 10時46分 罠だらけの道
 山と築堤の間の隙間を歩いて行く。土砂の築堤は大きな石が不安定な状態で転がっていて歩きにくい事この上ない。 しかし、枯葉に埋もれた隙間の道にも、隠れ石や水を溜めた落とし穴などの罠が潜んでいるのである。
つまり、どこをどう歩こうと、ここにベストは無いのである。自らの感覚のみで瞬時に選択しながら前に進むしかないのである。当りも外れも運次第なのである。 この道に限ってだが、この日私に運はなかったようである。
 しかし、ここで私はやっとこの道が旧道であるという事実を目にする事が出来たのである。 土砂の向こう側、立ち並ぶ木々の間に見える物!そう、ガードレールである。(写真にマウスを置くと拡大します。) 現在地  
 
 
 
 10時47分 その肩に担いでいるのはなんですか?
 6番目のカーブの先で見失ったと思った旧道を、再び確認する事が出来た私はチャリを取りに戻った後、再び、 罠だらけの道を行くこととなった。今度はチャリというハンデを担いで。
 嘗て、この道を通る人や、車を守る為のガードレールは今、捨てられた土石が谷へ落ちる事を防ぐ為にあるようである。
正に、用を無くした道の末路である。 現在地  
 
 
 
 10時48分 苦行
 下の道で見ることの無かったガードレールが続いている。そして中央には何処からか運ばれて来た土石。 その石の隙間を縫って成長し続ける木々はいつかこの地を森に変えていくのだろうか。
縦横無尽に伸びる根と枝、そして石に、チャリを押し、引き、担ぎ、しながら出口を目指す。 現在地  
 
 
 
 10時50分 守るべき物
 写真は山側の擁壁である。石積と外側のコンクリート製の二段の構造は、果たして同時期に作られた物なのだろうか? 想像ではあるが、落石等の通行遮断を防ぐ目的で、後からガードワイヤーを設置したのではないだろうか。 いつの世も、道路の維持管理には高額の費用が掛かるという、実例かもしれない。 現在地  
 
 
 
 10時52分 旧道という森を抜けて
 ゆるりと回ったカーブの先は直線となり、その先に明るい景色が見えてきた。
出口である。土捨て場となった道は尚も歩き辛い事に変わりは無いが、出口を確認した今、心も浮き立ってくるのである。 チャリに乗り颯爽と出口を出たいと考えたが、それを許してくれる程残りの道も甘くは無く、仕方なくチャリを押して行くのである。
進む程に視界が広がり、明るさが増していくのが分かる。
今、旧道という名の森を一つ抜けたのである。 現在地  
 
 
 
 10時53分 振り返れば森
 10時53分、旧道1を走破した。目の前の県道12号線は、エンジン音も高らかに列をなし車が行き交う現在であり、 振り返り見る旧道は過去となり、道という名を捨て森に還ろうとしている。私はそのはざ間に居る不思議さを、暫しの間かみしめていた。 現在地  
 
 
 
 10時57分 安堵と緊張
  旧道1のゴールは即ち、旧道2のスタートである。旧道2の入り口は地図が指し示す通りならば、写真に写る場所で間違いないのだが、 旧道1の入り口にあったゲートさえ無いのである。木々の生い茂るこの時期には、傍らを通っても見つける事は不可能に近いのでは無いかと 思われる。周辺と変わらぬ雑草の生い茂る状況は、昨今、林業の人も行かぬ道であるという事であろうか。
藪としか見えぬ状況に、私は再び暗澹たる思いがしてきたのである。それに加えて、先程から猿と思われる鳴き声が近づいて来ているし・・・。 現在地  
 
 
 
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