三程林道を行く

 
ある日、何を血迷ったのか、日頃、運動と名の付く事とかけ離れた生活をしていた五十過ぎの親父がMTBを買い、事もあろうにそれに乗って山に行くという・・。
まさにボンクラ道まっしぐらの暴挙に出たのである。  
 

身の丈に合うチャリが欲しい。

 あの日、思いつきでチャリで山へ出かけた私ではあったが、チャリを漕ぐ程につのる思いは、新緑の中を走る喜びや、自分の力だけで行ったという達成感では無く、 思いっきり足を伸ばしてペダルを漕ぎたいという欲求であった。
私が山への足としたチャリはコレ。息子が小学生の時、義父が買ってくれた子供用MTBだったのである。  
 

懐に優しいチャリが欲しい。

 力いっぱいペダルを漕ぎたいという欲求は日に日に強くなっていき、子供用チャリでの山行の翌週には新しい自転車を購入してしまったのである。
 購入の条件としたのは、まず価格が安い事、そして前輪、後輪が外せる事。ただそれだけである。
その条件でネット検索をするとGIANT(ジャイアント)というメーカーがヒットしたのだが、ここで問題が発生したのである。
GIANTは2007年8月以降、商品販売は対面販売のみという方針になったというのである。
つまり、ネットでいくら安く販売している店があろうとも、直接出向いて行かなければ、買う事が出来ないのである。
ネットで買えない物は無いといった現代において、これはどうだろうと思わないでもないが、自社の製品の保証に責任を持つという考え方なのだろう。
やれやれ、困った。近場に販売店はあるだろうか?
GIANTのホームページを見てみると・・・。
果たして、隣町にあるではないか。早速、電話をしてみると週末には入荷出来ると云う!
即決!その場で注文したのである。げに、勢いとは恐ろしいものである。

そして、注文したチャリがコレ。下の写真である。  
 
 
 
 ROCK 4500である。 数あるGIANT製品の中で低価格に位置するMTBである。他のMTBに触ったこともない私に、重量14.5kgが重いのかどうか、未だ判るはずもないが、 中学生の頃、羨望の眼差しで仲間の"5段変則のサイクリング車"を見ていた私にとって、フロント3段、リア7段の21段変速は驚愕の一言である。  
 

ロッキー号デビュー

 2008年5月17日、自転車を受け取るべく、久々の電車に揺られ隣町へと出掛けた。
店に到着し、実物のROCK4500を初めて目にする。「意外と大きく、立派じゃなーい?」が私の感想である。実際に跨ってサドルの調整などしてもらい、一番に知りたかった車輪の外し方などの指導を受け、おまけに、通販で買っておいたバーエンドも取り付けてもらったのである。
日頃、会話の無い買い物をしているせいか、店の御主人とのやりとりに楽しい時間を過す事ができた。
代金を支払い、そのまま自宅まで乗って帰って来たのだが、慣れないサドルに尻が痛くなった。
途中、にわか雨に合い、道端の木陰で雨宿りをすることになり、この自転車との相性を考えさせられたが、なんとか無事に自宅に着く事が出来たのである。  
 

いざ、林道へ

 2008年5月18日 日曜 天気晴れ。
今日こそ、思いっきり足を伸ばし、ペダルを力一杯踏み込み、林道を走るのだ。
ROCK4500愛称「ロッキー号」と共に目指すのは、前回と同じ道である。
 下の地図を見て頂こう。黒のバツ印が前回、息子の改造チャリで到達した場所である。
浪江町と葛尾村を結ぶ県道253号落合浪江線の途中東北電力高瀬川発電所を過ぎて右に分岐する道は 三程林道に続く道である。
三程林道は県道253号と国道114号を南北に結ぶ道であり、途中には幾つもの林道がある道なのである。  
 
 
 

第一ステージ

 県道35号線より西へ9km、253号線から川へ下っていく分岐点に出会う。
高瀬川を渡り、国道288号線へと通じる、中丸木林道の入り口である。写真はそのゲートであるが、常に開放されているようである。
(写真にマウスを乗せると拡大します。) 現在地  
 
 
 
県道253号線に戻り、再び西を目指すこと約1Km。東北電力高瀬川発電所の入り口に着く。発電所入り口ににある案内板にはしかっりと古道川発電所までの距離が記されている。
写真の左奥には森林鉄道の遺構である「かんとう橋」が写っている。
 
高瀬川発電所の先、県道は一時高瀬川を離れ三程の沢沿いに西を目指すが、突然気が付いたように沢を渡り、再び高瀬川に沿て都路を目指すのである。 その分岐点こそが、標高400mをピークとする三程林道の入り口である。
写真は三程林道の起点から約2Kmの地点。茗荷沢林道の入り口である。(写真にマウスを乗せると拡大します。) 現在地
 
三程林道起点から約3km地点。楢林林道入り口に到着する。この先に前回最終地点とした木橋があり、今回の目的地の一つであり、次なる目標のスタート地点なのである。
 

第一ステージ終了

 時刻は13時39分。前回、地図も持たず、単なる思い付きで訪れた場所に、真新しいチャリに跨りやって来た。 前回といっても、それは高々1週間前の事であるが、木橋の向うの緑はその濃さを深くしたようである。
ちなみに先週はこんな感じだった。
(写真にマウスを乗せると拡大します。)現在地  
 
 
 

第二ステージ −ピークを目指し登坂開始−

 
 
いよいよ、未知の区間へのスタートである。標高400mのピークを目指し、約2kmの坂道を駆け上がるのである。 標高差は190m、平均勾配は7.6パーセントである。
 
道に沿っていた沢も、標高290mにある民家の脇を過ぎた所から、谷にその姿を隠し、道は谷を巻きながら高度を上げていく。
カーブミラーでセルフポート。スタンドを立てても後進するチャリを腰で押さえての撮影である。
 
前からも、後ろからも車1台来やしない。舗装された道を行くのは私一人である。
すでに、漕ぐ気力も体力も無く、チャリを押し続ける。
 
林の道の先に陽の差す風景が広がる。何かが待っている気がするのは何故だろう。
 
しかし、束の間の空はすぐに閉ざされ、道は木々の中へと入って行く。
 
丸囲んだ所をアップしてみると、ガードレールが、・・。まだ先は長いようである。
 
突然、道幅の広いカーブが出現する。
ピークは近い。そんな期待を抱かせる風景である。
 
道が平坦になった。
チャリを止め、カーブミラーの先を確認しに行く。
・・・・・・。
道はこの先幾分下り始めているようである。 どうやら此処がピークであるらしい。
登りが終わったのである。もう、チャリを押さなくていいのである。
ホッ。
 

ピークに立つ −登坂終了−

14時13分。三程林道のピーク、標高400m地点に到着。
そこは、遠くが見渡せる訳でもなく、何の変哲も無い場所ではあるが、私にとって格別の場所となったのである。
私は陽の差す道端でしばし休息した。急ぐ事はない、後は下るだけである。
現在地  
 
 
 

下りは楽しい

 
 
道の舗装が切れることはないようである。下りの道にチャリはグングン加速していく。 小さなカーブに神経を張りながら一気に降りていく。 ピークより1.5km。少し大きなゲートに慌ててブレーキを掛ける。
 
賑やかなゲートの向うには、本道と変わらぬ幅の砂利道が続いている。
屋敷林道である。私が林道にイメージしていたのはこの様な道だったのだが・・。
(写真にマウスを乗せると拡大します。) 現在地
 
屋敷林道入り口から今降りてきた道を振り返って撮影。
 
再び下降開始。道はやがて沢と出会い、沿うよう高度を下げていく。
 
渓流の名にふさわしいような沢の風情である。
実際、途中何人かの釣り人を目撃した。笹に通した釣果を下げた人もいた。
この道は彼らにとっては極普通の道のようである。
 
狭い道からいきなり広い場所に飛び出る。
14時37分。三程林道を抜けたようである。
ピークから下ること20分。
楽しい時間であった。
 

第二ステージ終了

写真は大柿ダムである。ピークより4.2km、全長9.7kmの三程林道の終点なのである。
この地に居を構えてすでに20年は過ぎてしまったが、このダムを眼前にしたのは初めてである。
中心コア型ロックフィルという型式であるらしいが、石積みの模様とその巨大さにしばし見入ったのである。
「でっかい堤(つつみ)だな・・。」と。
現在地  
 
 
 
今降りてきた道を振り返り撮影。しばし、下りのスピードの余韻に浸りながら、近辺をウロウロする。
 
林道にそって下りて来た沢もここが終点で、請戸川に合流する。
それにしても、巨大な岩である。
 
ダムの放水路であろうか?水量はこの時期少ないようである。
 
トンネルが見える。それに、その上の屋根の掛かったような柱の建造物。
一体なんだろう。知りたい。
 
14時45分。帰路に着く。写真は請戸川を跨ぐ堰守橋である。
道はこの先、橋の下を潜り国道114号に合流するのである。               
 

あとがき

 2008年5月18日愛車ロッキー号との初めての林道走破は無事終了した。
しかし、本当にきつかったのは帰り道であった。堰守橋の袂から国道114号に乗り浪江方向への下りは快適ではあったが、 室原から県道35号線に入ると、大堀までは登りとなるのである。
正直、ここが今回一番辛かった場所となったのである。休日という事もあるのか、交通量もあり、衆人の眼が気になり 押して歩く事も出来ず、正に必死に漕いで登ったのである。
忘れえぬツーリングとなった。

−完−  
 
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