万右ェ門ダムをめざして  −後編−

 
 不思議な体験をした空き地を出てすぐ、山中に現れた壁のような急坂を歓喜の雄叫びを上げながら駆け下りたまでは良かったが、 当然ながら道は再び登り坂となった。
 チャリは乗り物から、押す物に戻った。(涙)

 
 舗装道路の謎
 
 再び上りチャリを押し始めてすぐ、道路脇にりっぱな案内板が現れた。
平成6年度 市町村森林整備計画策定等事業 間伐実施展示林と書かれている。
 林野庁のホームページに、「市町村森林整備計画とは」と題して以下の記事が記載されている。
市町村森林整備計画は、地域森林計画の対象となる民有林が所在する市町村が5年ごとに作成する10年間の計画であり、市町村における森林関連施策の方向や森林所有者が行う伐採や造林等の森林施業に関する指針等を定めるもので、地域にもっとも密着した行政主体である市町村が、地域の実情に応じて地域住民等の理解と協力を得つつ、都道府県や林業関係者と一体となって関連施策を講じることにより、適切な森林整備を推進することを目的とするものです。
 国が推し進めている市町村森林整備計画を実施するにあたって、補助金が地方自治体に出資されており、山中の名も無き道がやけに立派な舗装されている謎はこの案内板で解かれたのである。

写真は標高669.5mの東大森山をバックに我が愛車を写したものである。
 GPSの標高は530mを示している。
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 尾根伝いの道
 
 道幅は狭くなってきたものの、舗装は切れることもなく続いている。
坂であることに変わりは無いが、傾斜も緩やかになってきた。この程度なら非力な私もチャリを漕いで行く事が出来る。(笑)
 すでに森を抜けた道は視界も開け、山チャリストに最高の気分を味合わせてくれる。
 中丸木林道に続く分岐点まであと数十m地点。
道路の南端に現れた、厳重なフェンスと有刺鉄線に囲まれたこの建物。
 アンテナが立っている事から推察すれば、テレビの中継基地だろうか、さっと眺めただけなのでなんとも言えないが、 施設を説明するような看板を見つける事ができなかった。
 
 空にのびる鉄塔と、以外に小さく思えるアンテナ。
背景となる空は雲に覆われている。
 
 ゴールとスタート
 
   11時33分、中丸木林道へと続く分岐点に到着した。
望洋平トンネル側道を出発して、約50分が過ぎようとしていた。
 昨日、一気に下り降りた道を今日は確かめるように登ってきたのである。
写真の右側に進路を取ればれば、チャリを押し続けた中丸木林道が待っている。
しかし、今日目指すのは左に続く「万右ェ門ダム」である。  
 丁字路にはちょっと物騒な看板が建っていた。
あの空き地の唸り声はもしや・・・。
     "熊"の反対側にはリスの看板。
リスなら、会いたい。(笑)
 ちなみに、この森林国営保険とは、文字通り国が運営する保険で、昭和13年に制定された「森林国営保険法」に基づいて林野庁が運営している保険のようである。
ただこの保険、今年(平成10年)政府の行政刷新会議で特別会計の"仕分け"対象となり、「廃止」の方向で早急に民間に移管することが求められたようである。
 しかし、もともとこの保険が、リスクが高い割りには収益が低いことから民間の参入が無く、仕方なく国営でおこなわれてきたという経緯から、早々、廃止となることは無さそうである。
  税金の使われ方は取り合えず置いておいて、写真は中丸木林道方向を撮った物である。
 先の見えぬカーブや曲がり角は確かに恐いと思う反面、その先にどんな景色が待っているのかが見たい、知りたいという欲求があるのも事実なのである。
  その"想い"こそが私にとってペダルを踏む原動力となるのである。
   
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 再び、ノンストップ!
 
  昨日、舗装道路に心を惑わされ、計画と違う道を下ってしまった訳だが、中丸木林道から続く道も砂利道の区間はそう長くはなく、 すぐに、写真のような舗装道路となっていた。
 初めての道なら、写真を撮りながらゆるり下ればいいようなものだが、厭というほど押し続けて来たその反動もあり、下り坂を加速し続けるチャリの快感に、抗う事が出来なかったのである。
 故に、昨日と同じで、お見せする写真が無いのである。(言い訳・・・。)
 
 写真は、道の両端を囲んでいた木々が途切れ、突然の視界の広がりに、慌ててブレーキを掛け停車した場所である。
分かりにくいと思うが、この場所こそ本日の目的地である「万右ェ門ダム」なのである。
 
 
 チャリを降り、今来た道を戻りながらこのダムの全体像を撮ろうと試みたのだが、なかなか難しいようである。
(財)日本ダム協会のダム便覧によれば、この「万右ェ門ダム」は灌漑を目的とする、堤高20mのアースダムで、1935年竣工とある。
提頂部が一般道路となっている事もあり、ダムは見上げるような建造物とイメージする私のような者には、正直拍子抜けであった。
 写真の両端がガードレールで囲まれた場所がダムの提頂部であり、その右手には満々と水を湛えたダム湖が静かな佇まいを見せている。 時刻は11時45分。昼食にはちょうどいい時間となっていたので、森に囲まれたダム湖の水面の波紋なぞ眺めながら、持参した握り飯を食べる事にした。
 
 さて、昼食も済ませた事だし出発する事にしよう。
再び、チャリに跨りダムの南側に廻ると、写真の案内板が立っていた。
えっ?「万右ェ門ため池」
Mapionにはしっかりと「万右ェ門ダム」と書いてあったが・・・・。
ここで、改めて「ため池」とするのが本当なのだろうが、当初から書き続けた「ダム」に執着することにしよう。(笑)
 ため池もダムも水を貯める物に違いはないということで・・・。
 
でも、ため池の案内板脇の「告!危険」の看板には「ダム」のオンパレードだね・・。(笑)
まあ、それよりも気になるのは、看板で隠そうとしているようにも見える廃車なのだけれど・・。
廃車を覆う木々の成長からもかなりの時間が経過していると思うのだが、看板を立てる前に、この場所から撤去しようとは 考えなかったのだろうか?
案内板の「温故知新」の文字が皮肉に感じるのは私だけだろうか。
 ちなみにこの廃車、マツダのポーターキャブだと思うのだが、パカっと開いたフロントベンチレーターが素敵だ・・。
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 再び、上り坂
 
 万右ェ門ダムから国道288号線へ向かう道は立派な舗装道路となっていた。
だが、上り坂である。
 下りが続くものとばかり思っていたのに・・・。(涙)
 まだまだ、上り坂である・・・。
漕いで登り切れる脚力が有る訳も無く、すぐに諦めチャリを押して登る事とする。
 こんな時だけ、私は決断が早いのである。(笑)
 「万右ェ門ため池」の看板から距離にして約1.5km、国道288号線との分岐点に到着した。
途中に登り坂が有ることを知らなかったのは、地図を見ても、地図を読まない為である。反省するように、「ハイッ。」
 ちなみに、万右ェ門ダムは標高520mにあり、国道へ出る為には、途中のピーク550mを登り返さなければならないのである。
写真左隅の少し色の薄いアスファルトが国道288号線であり、看板の矢印が示す道が今下りて来た道である。
<左の写真にマウスを乗せると画像が変わります。>
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 初めての廃道
「万右ェ門ため池」の案内板から約2.1kmを一気に下って来た。
途中、何を血迷ったのか、国道北側の林道を廃道と勘違いし迷い込んでしまうという、あまりにおそまつな行為にかなり時間をロスしてしまったが、 なんとか望洋台トンネル脇の廃道へと辿り着いたのである。
 1998年に望洋平トンネルが完成したことにより、嘗ての国道は廃道となったのである。
熊川沿いの落石の多かった隘路が10年という歳月を経て、どんな姿となって現れるのだろうか。
 私にとって初めての廃道歩き始まったのである。
 

 トンネル西側の入口近傍は、車の出入りも多く、それ以上に衆人の眼が気になり、廃道入口の写真を撮る事が出来なかった。
(小心者です、ハイ。)
 行き先を塞ぐガードレールの向うにチャリを持ち上げて入れた後、トンネルとガードレールの僅かな隙間から、私もその後に続いた。
 嘗ての国道は、枯れ葉に埋もれ、伸び放題の木々に光も届かぬ薄暗い森と化していた。
 所々に見えるアスファルトの路盤と、ガードレールだけが嘗てここが国道であった事を伝えている。
それにしても、狭い道である・・・。
 370mの廃道も残り僅かとなり、出口が見えてきた。
森と見紛う道の向うに、光に照らされた我が愛車が見える。
 落石防止ネットには大きな破綻は見られなかったが、道の両側から伸び続ける植物の力には、改めて自然の力強さを感じたのである。
 12時35分、初めての廃道歩きの終点がやってきた。
時間にして5,6分の短い探索であった。
 この道に入る時の不安な気持は消え、名残惜しさに振り返れば、薄暗い森の頭上に、初夏の光を浴びた若葉が輝いていた。
 
 おわりに
 昨日到達する事ができなかった「万右ェ門ダム」も見る事ができ、短い距離ではあったが、自身初めてとなる「廃道」を走る事もできた。
約2時間の小さな旅ではあったが、十分に楽しめたと思う。
 ただ、今回も反省の多い"山行"となったのも事実であり、特に、望洋台トンネル西口での山中彷徨はボンクラを越して"阿呆"の域だった。
 最後に、その"阿呆"が撮った写真を下に並べる。これはこの失敗を忘れない為である。(爆)
 
 道脇に舗装された道があればすぐ飛びつくのね・・・。
 振り返って見てるけど、間違いに気付いたのかな?
 いやいや、その巾はいくら頑張っても国道だったはずがないでしょう?
えっ?先にあるかも知れないって・・・・?!
 大部登っちゃったねー。
えっ?まだ行くの!
 絶対、この道林道でしょう!
 
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